
2018年04月13日
渡辺知明『文章添削の教科書』の新聞記事の見出し添削法
文章の理解とは「添削」である。渡辺知明著『文章添削の教科書』では、その一例として、新聞記事の見出しに添削する方法を紹介した。「百聞は一見にしかず」が添削の赤ペンである。
この赤ペンを文章化すると次のようになる。「『人間失格』の原型を執筆したアパートは、太宰作品の舞台で「文化遺産」なのだから残してほしいと、東京の杉並区で来月、「サミット」が開かれる。」

渡辺知明著『文章添削の教科書』の紹介動画
渡辺知明著『文章添削の教科書』は2015年に刊行された。文章力の3要素、(1)発想力、(2)展開力、(3)推敲力のうち、一般の文章指導の本に欠けている「(3)推敲力」養成の方法として「添削」の技術を提案するものだ。その紹介動画がある。これは、文章を書くことが苦手であったが、本書を一読して感動した方が作製してくれたものである。これまで285アクセスであるが、より多くの人に見ていただきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=8AB5f_mIweY&t=9s
https://www.youtube.com/watch?v=8AB5f_mIweY&t=9s
2018年04月09日
2018年04月05日
『文章添削の教科書』の「逆添削」実例=新美南吉「ごん狐」
教科書の教材で有名な新美南吉「ごん狐」は、『赤い鳥』に掲載のときに、鈴木三重吉が添削したものだ。その添削がどのようなものだったかは、「逆添削」という方法で再現することができる。どのように添削したのか、それを一目で見られるような方法である。
「逆添削」の方法については、渡辺知明『文章添削の教科書』を参照のこと。
「逆添削」の方法については、渡辺知明『文章添削の教科書』を参照のこと。

2018年03月28日
渡辺知明のドラマリーディング台本=太宰治『お伽草紙』シリーズ2冊
渡辺知明のドラマリーディング台本。太宰治『お伽草紙』シリーズから、『瘤取り&浦島さん』と『カチカチ山&舌切雀』が完成した。ご希望の方には500円+送料でお分けする。A4簡易製本64ページ、それぞれ付録付き。

YouTubeに「瘤取り」のドラマリーディング動画がアップしてある。
https://www.youtube.com/watch?v=jbe_-lu0zQo&t=320s
【台本リスト】太宰治=『瘤取り&浦島さん』『カチカチ山&舌切雀』「赤い太鼓」「破産」「女賊」「貧の意地」「大力」。シェイクスピア=「マクベス」「リヤ王」。ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック」。宮澤賢治=『労働3部作=オツベルと象/猫の事務所/カイロ団長』「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」。チェーホフ=「かもめ」「桜の園」ほか。

YouTubeに「瘤取り」のドラマリーディング動画がアップしてある。
https://www.youtube.com/watch?v=jbe_-lu0zQo&t=320s
【台本リスト】太宰治=『瘤取り&浦島さん』『カチカチ山&舌切雀』「赤い太鼓」「破産」「女賊」「貧の意地」「大力」。シェイクスピア=「マクベス」「リヤ王」。ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック」。宮澤賢治=『労働3部作=オツベルと象/猫の事務所/カイロ団長』「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」。チェーホフ=「かもめ」「桜の園」ほか。
2018年03月12日
渡辺知明「朗読を楽しもう!」オープン・セサミ/ブランド・ニュー・アイ
オープン・セサミ/ブランド・ニュー・アイ「朗読を楽しもう!」
2003年12月18日(木)9:30-50 JFN提供
ゲスト=渡辺知明/聞き手=山川 牧
【オープニング】表現よみ「てぶくろを買いに(新美南吉)」
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
――聴いていただきましたか。今日は朗読についてご紹介します。オープニングで朗読をしてくださったのは、本日のゲスト日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生です。おはようございます。よろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――いま小さい子どもの気持ちにもどって、もっと聴きたいと思いました。時間が限られているので申しわけありません。まず、朗読というのはどういうものですか? ひと言で言うと何でしょうか。
渡辺 朗読とはまず第一によむことです。声に出してよむことです。黙って読むのは黙読です。もうひとつ大事なのは、意味が分かってよむことです。よんでいる人も意味が分からなければならないし、聞いている人も意味が分からなくてはいけない。
――今の朗読には、お母さんのキツネと子どものキツネの声にいろいろな表情がついていますね。これにはテクニックは必要なのですか。
渡辺 文字を読んでしまう人がいます。字を読むひとや文を読む人がいます。また、台本のようによんでしまう人がいます。大事なのは作品なのです。だれかがしゃべっている調子でよむのです。そうすると表現して語る調子が出てきます。
――初めて朗読をする人に先生は何から教えてらっしゃるのですか?
渡辺 なにって?
――たとえば、私が朗読をやりたくて先生のところに行ったとします。そのとき、まずこれをしなさいというのは何でしょうか。
渡辺 「自分で意味が分かるようによみなさい」ということです。
――相手に伝えるときに……
渡辺 「相手に伝えるということは考えるな。自分が分からないものは相手に伝わらない」といいます。よんでいる瞬間、その都度、自分の中にイメージをわかしてよむのです。ですから、わたしは最初からでっかい声を出せということは言わないんです。「あなたは分かっているの」といいます。
――要するに、文章を目で追いかけるのではなくて、ちゃんと自分の気持ちに入っているかどうかですね。物語を選ぶのはどんな基準ですか。
渡辺 文章がいい作品のほうがよみやすいですね。
――文章がいい悪いというのは、初めての人には判断がむずかしいですね。
渡辺 ええ、一見して意味がとれないようなもののほうがやりがいがあります。それをほじくってよんでいくのです。オーラル・インタープリテーションというものがあります。つまり、声に出して文章の意味が分かることがよくありますね、むずかしい文章など。それが基本です。
――なるほど。
渡辺 だから、ちょっとちがいます、普通の朗読とわたしの考えとは。
――では、後半でも引き続きお話をうかがっていきます。
(休憩)
――オープン・セサミ、ブランド・ニュー・アイ。今日は朗読についてお送りしています。日本コトバの会の講師でコトバ表現研究所を主宰なさいます渡辺先生にお話をおうかがいしています。引き続きよろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――私ね、朗読って、思い出したんですけど、小さいときに母であったり、おじいちゃんであったり、よんでくれたってのがあるんですけど、そこから読んでもらうことがなかったのです。もちろん自分でよむのも大切ですが、朗読というのは昔とくらべて最近ではやられている人の数は多いのでしょうか。
渡辺 増えていますよね。目で読むよりも、自分自身が楽しいし、聴いている人も楽しいし、両方が楽しいからね。それで増えていると思います。
――若いかたも……
渡辺 若いかたは詩を読んだり、ポエトリー・リーディングというかたちですね。表現できますからね。学校でよむのは字面をよみなさいということで、字と漢字をよんでおわっちゃうけれど。表現できるのがおもしろい。ですから、わたしは朗読よりも「表現よみ」と言った方がいいと思っています。
――先生が朗読をしようと思ったきっかけは何だったのですか。
渡辺 わたしはもともと小説が好きで読んでいたのですが、声を出した方が小説がわかるなと思ったからです。
――たしかに、私の仕事がら原稿が出されますけれど、自分で声を出した方がはいりますものね。
渡辺 そうですね。また、小説の語り口という調子が声に出すことで確かめられます。歌でも楽譜をよんでもおもしろくないですね。
――歌ってみる。
渡辺 そうです。歌ってみる。それと同じです。
――生徒さんに教えてらっしゃって、朗読に向いている人、向いていない人というのはありますか。
渡辺 これには問題があります。自分が楽しむのか、人に聴かせるのかということです。自分が楽しむのだったら自分がよめばいいでしょう。それも朗読です。
――では、人を楽しませたいときに、先生がレッスンのなかで注意するのは何ですか。
渡辺 あのね、ウソをつかないことですね。つまり、自分の心に浮かんだ分だけ声に表現すればいい。心にもないのに大袈裟にいったらウソっぽく響くわけだから、まず自分が作品の中に入る。理解して自分がその気持ちになった分だけ声に出すのがいちばん大事です。
――声だけではなく気持ちがともなっていないとできないのですね。
渡辺 だから、読み込みが大事ということが言えます。
――初めてよむときは、先生に教わったり、生徒さんのなかでやるので恥ずかしさがあるでしょうね。
渡辺 ありますね。最初は恥ずかしいでしょう。大きい口をあけたり、ふだんとちがう言い方をしますからね。でも、作品の中にはいっちゃえば、恥ずかしさはなくなっちゃう。自分ではないのですから、「愛してます」なんて言っても、自分ではなく作品の中の人物が言っていると思えば、恥ずかしくなく言えますね。
――人の気持ちを、自分が代わって伝えるということでしょうかね。
渡辺 そうですね。
――朗読ってむずかしいことだと思います。書いた人や主人公の気持ちになって、言葉で発するわけですからね。コツというものはあるんですか。
渡辺 文章を正確によむことが大事ですね。そうしないで、目でパッと見て、単語に力を入れてみたりする。文章をよくよめば力の入れどころはわかるんです。意味を強めるところです。何度も繰り返してよみながら、表現までしていくということをすれば、うまくいく。
――読解力ですね。
渡辺 そうです。
――私も勉強しなくちゃ(笑)。先生のすすめられる初心者用の朗読本を教えてくださいますか。
渡辺 太宰治の書いた「思い出」という作品です。これは初心者でも気持ちがすっとはいれます。あとは、志賀直哉の作品、どれもよく文章が書けています。一見やさしいけれども読む込むと深い。わたしが好きでオススメするのは、梶井基次郎と中島敦の作品、これは文章がとてもどちらもすばらしい。味わえます。
――なるほどね。あっ、今日、先生に朗読していただいた作品を紹介するのを忘れていました。新美南吉「てぶくろを買いに」という作品でした。こちらを選んだポイントは何だったのでしょうか。
渡辺 やさしさですかね。自分が子どもにもなれるし、お母さんにもなれる。それがみなさんにどう伝わったかが問題ですけれど、やさしさがいいですね。
――十二月のこの気ぜわしい時期に、ほっとしたやさしい気持ちと、ちょうど雪も出てきましたし、時期に合ったのじゃないかな。先生はいろいろな講座を開いていらっしゃいますが、地方講演などはなさるのですか。
渡辺 お呼びが掛かればどこへでも出かけますよ。来年は福島へ行くかなという予定があります。わたしのグループで朗読劇的なものをやろうかという話が出ています。まだ固まっていません。
――決まったら、このオープンセサミでもお知らせしたいと思います。では、最後に朗読に関するアドバイスをお願いします。
渡辺 簡単なことです。頭を使ってよみましょう。カラダでよむ朗読が最近、流行っていますが、カラダにプラスして頭が必要です。読解も必要だし、作品を読み込むことは理解することです。理解が表現になったときに、ウソをつかない本物の朗読ができるかと思います。
――渡辺先生の前で私が朗読したら、「この子はこんなことを考えているな」って、性格分析までされちゃいそうですね(笑)。では、みなさんもぜひ朗読にチャレンジしてみてください。今日は日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生に朗読、教えていただきました。ありがとうございました。
渡辺 ありがとうございました。
――しゃべるのに、緊張しました。それでは、こちらの曲を聴いていただきます。(了)
2003年12月18日(木)9:30-50 JFN提供
ゲスト=渡辺知明/聞き手=山川 牧
【オープニング】表現よみ「てぶくろを買いに(新美南吉)」
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
――聴いていただきましたか。今日は朗読についてご紹介します。オープニングで朗読をしてくださったのは、本日のゲスト日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生です。おはようございます。よろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――いま小さい子どもの気持ちにもどって、もっと聴きたいと思いました。時間が限られているので申しわけありません。まず、朗読というのはどういうものですか? ひと言で言うと何でしょうか。
渡辺 朗読とはまず第一によむことです。声に出してよむことです。黙って読むのは黙読です。もうひとつ大事なのは、意味が分かってよむことです。よんでいる人も意味が分からなければならないし、聞いている人も意味が分からなくてはいけない。
――今の朗読には、お母さんのキツネと子どものキツネの声にいろいろな表情がついていますね。これにはテクニックは必要なのですか。
渡辺 文字を読んでしまう人がいます。字を読むひとや文を読む人がいます。また、台本のようによんでしまう人がいます。大事なのは作品なのです。だれかがしゃべっている調子でよむのです。そうすると表現して語る調子が出てきます。
――初めて朗読をする人に先生は何から教えてらっしゃるのですか?
渡辺 なにって?
――たとえば、私が朗読をやりたくて先生のところに行ったとします。そのとき、まずこれをしなさいというのは何でしょうか。
渡辺 「自分で意味が分かるようによみなさい」ということです。
――相手に伝えるときに……
渡辺 「相手に伝えるということは考えるな。自分が分からないものは相手に伝わらない」といいます。よんでいる瞬間、その都度、自分の中にイメージをわかしてよむのです。ですから、わたしは最初からでっかい声を出せということは言わないんです。「あなたは分かっているの」といいます。
――要するに、文章を目で追いかけるのではなくて、ちゃんと自分の気持ちに入っているかどうかですね。物語を選ぶのはどんな基準ですか。
渡辺 文章がいい作品のほうがよみやすいですね。
――文章がいい悪いというのは、初めての人には判断がむずかしいですね。
渡辺 ええ、一見して意味がとれないようなもののほうがやりがいがあります。それをほじくってよんでいくのです。オーラル・インタープリテーションというものがあります。つまり、声に出して文章の意味が分かることがよくありますね、むずかしい文章など。それが基本です。
――なるほど。
渡辺 だから、ちょっとちがいます、普通の朗読とわたしの考えとは。
――では、後半でも引き続きお話をうかがっていきます。
(休憩)
――オープン・セサミ、ブランド・ニュー・アイ。今日は朗読についてお送りしています。日本コトバの会の講師でコトバ表現研究所を主宰なさいます渡辺先生にお話をおうかがいしています。引き続きよろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――私ね、朗読って、思い出したんですけど、小さいときに母であったり、おじいちゃんであったり、よんでくれたってのがあるんですけど、そこから読んでもらうことがなかったのです。もちろん自分でよむのも大切ですが、朗読というのは昔とくらべて最近ではやられている人の数は多いのでしょうか。
渡辺 増えていますよね。目で読むよりも、自分自身が楽しいし、聴いている人も楽しいし、両方が楽しいからね。それで増えていると思います。
――若いかたも……
渡辺 若いかたは詩を読んだり、ポエトリー・リーディングというかたちですね。表現できますからね。学校でよむのは字面をよみなさいということで、字と漢字をよんでおわっちゃうけれど。表現できるのがおもしろい。ですから、わたしは朗読よりも「表現よみ」と言った方がいいと思っています。
――先生が朗読をしようと思ったきっかけは何だったのですか。
渡辺 わたしはもともと小説が好きで読んでいたのですが、声を出した方が小説がわかるなと思ったからです。
――たしかに、私の仕事がら原稿が出されますけれど、自分で声を出した方がはいりますものね。
渡辺 そうですね。また、小説の語り口という調子が声に出すことで確かめられます。歌でも楽譜をよんでもおもしろくないですね。
――歌ってみる。
渡辺 そうです。歌ってみる。それと同じです。
――生徒さんに教えてらっしゃって、朗読に向いている人、向いていない人というのはありますか。
渡辺 これには問題があります。自分が楽しむのか、人に聴かせるのかということです。自分が楽しむのだったら自分がよめばいいでしょう。それも朗読です。
――では、人を楽しませたいときに、先生がレッスンのなかで注意するのは何ですか。
渡辺 あのね、ウソをつかないことですね。つまり、自分の心に浮かんだ分だけ声に表現すればいい。心にもないのに大袈裟にいったらウソっぽく響くわけだから、まず自分が作品の中に入る。理解して自分がその気持ちになった分だけ声に出すのがいちばん大事です。
――声だけではなく気持ちがともなっていないとできないのですね。
渡辺 だから、読み込みが大事ということが言えます。
――初めてよむときは、先生に教わったり、生徒さんのなかでやるので恥ずかしさがあるでしょうね。
渡辺 ありますね。最初は恥ずかしいでしょう。大きい口をあけたり、ふだんとちがう言い方をしますからね。でも、作品の中にはいっちゃえば、恥ずかしさはなくなっちゃう。自分ではないのですから、「愛してます」なんて言っても、自分ではなく作品の中の人物が言っていると思えば、恥ずかしくなく言えますね。
――人の気持ちを、自分が代わって伝えるということでしょうかね。
渡辺 そうですね。
――朗読ってむずかしいことだと思います。書いた人や主人公の気持ちになって、言葉で発するわけですからね。コツというものはあるんですか。
渡辺 文章を正確によむことが大事ですね。そうしないで、目でパッと見て、単語に力を入れてみたりする。文章をよくよめば力の入れどころはわかるんです。意味を強めるところです。何度も繰り返してよみながら、表現までしていくということをすれば、うまくいく。
――読解力ですね。
渡辺 そうです。
――私も勉強しなくちゃ(笑)。先生のすすめられる初心者用の朗読本を教えてくださいますか。
渡辺 太宰治の書いた「思い出」という作品です。これは初心者でも気持ちがすっとはいれます。あとは、志賀直哉の作品、どれもよく文章が書けています。一見やさしいけれども読む込むと深い。わたしが好きでオススメするのは、梶井基次郎と中島敦の作品、これは文章がとてもどちらもすばらしい。味わえます。
――なるほどね。あっ、今日、先生に朗読していただいた作品を紹介するのを忘れていました。新美南吉「てぶくろを買いに」という作品でした。こちらを選んだポイントは何だったのでしょうか。
渡辺 やさしさですかね。自分が子どもにもなれるし、お母さんにもなれる。それがみなさんにどう伝わったかが問題ですけれど、やさしさがいいですね。
――十二月のこの気ぜわしい時期に、ほっとしたやさしい気持ちと、ちょうど雪も出てきましたし、時期に合ったのじゃないかな。先生はいろいろな講座を開いていらっしゃいますが、地方講演などはなさるのですか。
渡辺 お呼びが掛かればどこへでも出かけますよ。来年は福島へ行くかなという予定があります。わたしのグループで朗読劇的なものをやろうかという話が出ています。まだ固まっていません。
――決まったら、このオープンセサミでもお知らせしたいと思います。では、最後に朗読に関するアドバイスをお願いします。
渡辺 簡単なことです。頭を使ってよみましょう。カラダでよむ朗読が最近、流行っていますが、カラダにプラスして頭が必要です。読解も必要だし、作品を読み込むことは理解することです。理解が表現になったときに、ウソをつかない本物の朗読ができるかと思います。
――渡辺先生の前で私が朗読したら、「この子はこんなことを考えているな」って、性格分析までされちゃいそうですね(笑)。では、みなさんもぜひ朗読にチャレンジしてみてください。今日は日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生に朗読、教えていただきました。ありがとうございました。
渡辺 ありがとうございました。
――しゃべるのに、緊張しました。それでは、こちらの曲を聴いていただきます。(了)
渡辺知明=日本語について考える「ヒルサイド・アヴェニュー/シュガー&スパイス」
「ヒルサイド・アヴェニュー/シュガー&スパイス」
2004年2月17日(火)15:20-40 JFN提供
ゲスト=渡辺知明/聞き手=西任暁子(にしと・あきこ)
同時録音公開 ※2018年3月12日(月)話の背後の音楽がうるさい
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
――ヒルサイド・アヴェニュー。この時間はさまざまなジャンルの方がたをお招きしてお送りしていきます。シュガー&スパイスです。きょうは、コトバ表現研究所主宰、そして日本コトバの会講師そして事務局長でもいらっしゃいます渡辺知明さんをお招きしています。よろしくお願いいたします。
渡辺 よろしくお願いします。
――まず、コトバ表現研究所これはどんな会なのか、気になるところなんですが、先生が運営されているのでしょうか。
渡辺 そうです。わたしがほとんど全部やっています。
――これはどんな研究所なのですか。
渡辺 基本的には二つのことをやっています。一つは、よみの勉強。一般には朗読といわれていますけれども、わたしは表現よみと呼んでいます。文学作品を取りあげて、その表現の仕方を教えています。もう一つが、文章を通信で添削して、さらにトレーニングをさせて書く力を高めることをやっています。よむ方は話す力が高まるし、書く方は考える力が高まります。そういう研究をしています。
――やっぱり読んでいくと話す力って高まるんですか。
渡辺 中身をしっかりつかんでよむと話す力が高まる。文字だけではいくらよんでもダメです。文字を読んでいる限りは、結局、考えていませんから。
――結局、文字をなぞって内容はよくわかっていないということになるわけですね。
渡辺 ですから、理解しながらよむというのが表現よみの特徴になっています。
――朗読と、表現よみとは、どういうちがいがあるのでしょうか。
渡辺 朗読は基本的には伝えることが重点です。ですから、発声や発音などに重きがあります。ところが、表現よみの場合には、よみ手自身が必ず自分で理解しながら読んでいかなくてはいけない。ですから、一回一回ごとに新しい発見をしながらよんでいくこと、そういうよみです。
――表現よみも他者に対して伝えるという意識はあるんですね。
渡辺 そうですね。
――と同時に、自分自身がちゃんと理解した上でということですね。
渡辺 つまり、理解があってそれが表現になるのです。自分が分かっているものを、人に向けてデフォルメするというか、アピール度を高めていきます。朗読の人はむしろはアピールを先にやってしまいます。自分自身が理解するという点が弱いのではないかと、わたしは思っています。
――それで表現よみというのですね。
渡辺 はい。
――書くことでは、どういうかたが通信の添削を受けているのですか。
渡辺 一般の社会人の方ですとか、おとなの方が多いのですけれども、要するに学校教育の中では十分に勉強できなかったという思いのある人が多いですね。
――それは、たとえば企画書だったり、手紙だったり、内容はどういうものなのでしょうか。
渡辺 あらゆるものを受け付けていますが、基本的トレーニングは思考力です。文をどう作るかとか、文と文とをどうつなげるかというベースになるところをトレーニングで訓練しています。
――作文とか論文に近いかたちのものなのでしょうか。
渡辺 作文も論文も文章を作るのですが、考えること、文章を使って考えるトレーニングです。表現が微妙ですが、そういう添削トレーニング教室というものを行っています。
――そういう読み書きの指導していながら思われる日本語というものに対しての最近の、傾向はどういうものなのでしょうか。
渡辺 よく乱れているといわれますが、わたしは二つの面があると思います。一つは能力不足で乱れているガンです。もう一つは、異議申し立てというか、批評になっているものです。世の中の言葉づかいに対する批評の面があります。それは若い人も含めてのことです。両面があることをきちんと見ていかないと、ただけなしてもいけないし、ただ受け入れてもいけないと思います。
――能力不足というのはどのあたりが原因なのでしょうか。
渡辺 一つは、学校教育、とくに国語教育にあります。
――国語教育ってそんなに変わってきているものなのですか。
渡辺 わたしは深くは知りませんが、とにかく一般の人で、書く力、話す力に自信がないという方は残念ながら多くなっていると言えます。
――実際に、書く訓練、読む訓練というものをした記憶はないですものね。
渡辺 そうですね。朗読にしても、学校ではただ字を追って早くよめると、この人はすばらしいというのですね。
――たしかに、速くまちがえずに読めばすばらしかったという経験はありますね。
渡辺 先生も能率がいいのです。すらすらよめる読める生徒を指すと授業がすすむのです。でも、ゆっくり読んでいても、何か気持ちの入っている生徒というのはいますよね。一生懸命に考えて読んでいてね。
――先生が、時間を割いていないのですね。
まだまだ日本語のことをおうかがいしていきたいと思いますが、ここで一曲、リクエストをお送りしたいと思います。どんな曲なのでしょうか。
渡辺 題名を言うのですか。
――はい。
渡辺 五つの赤い風船の「遠い世界に」という曲です。学校の教科書にも入っていますけれども、もう三十年も前の曲です。理想を歌った曲で、わたしが若いころ聞いて感動して、いまだに感動し続けている曲です。
――それでは聞かせてください。「遠い世界に」。
(五つの赤い風船「遠い世界に」西岡たかし作詞・作曲)
――シュガー&スパイス。曲をお届けいたしました。今日はこの曲にリクエストをいただいた、コトバ表現研究所主宰、日本コトバの会講師兼事務局長の渡辺知明さんをスタジオにお迎えしております。
さあつづいて、日本コトバの会、こちらの方も話をおうかがいしたいのですが、どういう会なのでしょうか。
渡辺 昭和二十七年にできまして、今でも売れている本なのですが、『思考と行動における言語』(岩波書店)という言語学の基本的な本と言われています。これを――
――教科書としても使われているのですね。
渡辺 そうです。この翻訳をした大久保忠利という人が中心になって、翻訳の記念に読書会を開きまして、有名な人では鶴見俊輔さんなどそうそうたる学者がそろって作った会なのです。今でも、もう五十年になりますけれども、文章・話し方・表現よみ・小説・文法・ユーモア・言語心理という風にいろいろな部会を作りまして、そこで毎月、例会を開いています。
――どういう方が参加されているのですか。
渡辺 大学の先生もいますし、一般の主婦とか、あるいは社会人、あるいは学生とか、さまざまの人が勉強する会です。
――なるほど、日本コトバの会での「生きたコトバの四原則」というのがあるんですね。「正しく、分かりやすく、切れ味よく、ふさわしく」。こう言われると何かできそうな気がするのですけれども……。
渡辺 話し方についてコメントしますと、「正しく」は、単語のアクセントを強めるとか、きちんと文のかたちで話すとか、正しい内容を話す努力をすることです。二つめは、「わかりやすく」というのは、発声とか話し方ですね。文末までしっかり言うこと、そうすると責任が生じますので、三つめで、論理といいますが、「こうなのだ。つまり……」とか、「なぜなら」とか言いたくなりますね。それが「切れ味よく」です。四番目が、その場その場にふさわしい感じで話しましょう。
――「感じ」? 雰囲気……。
渡辺 「雰囲気」、「態度」ですね。
――これは、できてないんではないでしょうかねえ。
渡辺 これは目標です。
――日本語では、どんどん略していますね。ちゃんと語尾まで話しませんよね。アイマイですよね。
渡辺 アクセントが平板化していますね。節約してしまう。美人、映画、ドラマとか言いますが、あれは、ビジン、エイガ、ドラマです。
――あっ、エイガなのですか。
渡辺 そうですね。きれいですね。頭にきちんとアクセントをつけるとね。それも一つですね。アクセント一つで、ことばが生きてきます。これもただ上げるのではなく、強めるといいのです。アクセントは。
――なるほどね。
渡辺 そんなことも、コトバがきれいになる一つの条件だと思います。
――それではきれいな日本語というものを、ぜひ一つ聞かせていただきたいのですが、先生が提唱していらっしゃる表現よみをしていただけるということで、梶井基次郎作「愛撫」ですね。それではよろしくお願いいたします。
(梶井基次郎「愛撫」冒頭)
――はい、ありがとうございます。最近、自分が聞いていた日本語とちがう、さっきおっしゃった美しくて、正しく、わかりやすく、切れ味よくてという、いろいろな要素が感じられました。
渡辺 ありがとうございます
――これは何回も読み込んでいるのですか。
渡辺 あまり読んでしまうとダメなのです。よく暗記する人がいますが、暗記してしまうとだめなのです。思い出すだけで終わってしまうのです。わたしの場合は、できるだけ隠しておいて、いつでも初めて見るつもりでドキドキしているのです。次にどんな文章が出てくるのかなという期待感がないとダメなのです。見た瞬間に反応して、自分の心が揺れて来ないと、うまく読めないのです。そんな読み方につとめています。
――普段は自分は日本語がしゃべれるので、英語など外国語に意識が行きがちだと思うのですが、日本語をもっと美しくしゃべりたいなと思った人は、どのあたりから始めればよいでしょうか。
渡辺 「三つの訓練法」というのを言っています。一つは、音読してみましょう。声を出して読んでみましょう。最初から表現よみとは言いませんから。新聞のコラムを、わたしは毎朝トイレの中で声に出して読んでいます。
――声に出して?
渡辺 声に出して。それも、大きい声を張る必要はありません。自分で内容をキャッチできた分だけ声に出してみるのです。しっかりと瞬間ごとに理解できているかと意識しながら読むのです。たどたどしくていいのです。これが一つです。もう一つは、大学ノートでいいですから日常的にしゃべるつもりで書く練習をするといいのです。書く力が話す力に転化します。相互作用です。もう一つは、本を読むときに印しをつけましょう。べつに三色でなくてもいいので、一色で結構ですから、丸をつけたり、線を引いたり、波線をつけたりするのです。今わたしの手もとにさっきよんだ台本がありますが、これにはいろいろな印しが付いています。文章を区切ることによって、音楽を理解するときに楽譜を音に変えるようなつもりで印しをつけていくのです。
――たしかに、わかりやすいですね。その三つぜひやっていただきたいですね。ちょっとCMをはさんで、先生の今後のご予定など聞かせていただきたいと思います。
(CMが入る)
――ヒルサイド・アヴェニュー、引き続きコトバ表現研究所主宰、日本コトバの会講師兼事務局長の渡辺知明さんをお迎えしています。
やってみます、わたしも、朗読!
渡辺 はい、お願いします。わたしの教室にも、アナウンサーのかたが来ています。
――そうなのですか。アナウンサーのかたの読むものとはちがうのですよね。
渡辺 本当の意味でのコトバの訓練ができます。わたしは「心とコトバの一体化」と呼んでいます。一体化した表現がいちばんいいのです。
――今、ここに台本があるのですけれども、わたしも、初見でもいろいろな記号が付いているので読みやすかったです。一度もまちがえることなく読めてしまって。
その記号なども、先生のホームページに書かれていますので、ぜひみなさんもそちらからご覧になってみてください。それから先生、今後のご予定などありましたら教えていただけますか。
渡辺 三月六日に、「第5回・渡辺知明・表現よみ独演会」というものがあります。会場は山手線の大崎駅前です。駅で降りてすぐです。
――そちらも詳しくはホームページをご覧になっていただきたいと思います。では、最後にもう一曲、先生のリクエストをお送りしたいと思います。これはちょっと変わったタイトルですね。どういう曲なのですか。
渡辺 「しらみの旅」ですね。シラミは今はいなくなったそうですけれども、われわれもシラミのように旅をしているのではないかと、そういうことを三十年前くらいに歌った人がいました。
――高田渡さんですね。はい、「しらみの旅」を聞きながら先生とお別れです。どうもありがとうございました。
渡辺 どうもありがとうございました。(了)
2004年2月17日(火)15:20-40 JFN提供
ゲスト=渡辺知明/聞き手=西任暁子(にしと・あきこ)
同時録音公開 ※2018年3月12日(月)話の背後の音楽がうるさい
再生できない場合、ダウンロードは🎵こちら
――ヒルサイド・アヴェニュー。この時間はさまざまなジャンルの方がたをお招きしてお送りしていきます。シュガー&スパイスです。きょうは、コトバ表現研究所主宰、そして日本コトバの会講師そして事務局長でもいらっしゃいます渡辺知明さんをお招きしています。よろしくお願いいたします。
渡辺 よろしくお願いします。
――まず、コトバ表現研究所これはどんな会なのか、気になるところなんですが、先生が運営されているのでしょうか。
渡辺 そうです。わたしがほとんど全部やっています。
――これはどんな研究所なのですか。
渡辺 基本的には二つのことをやっています。一つは、よみの勉強。一般には朗読といわれていますけれども、わたしは表現よみと呼んでいます。文学作品を取りあげて、その表現の仕方を教えています。もう一つが、文章を通信で添削して、さらにトレーニングをさせて書く力を高めることをやっています。よむ方は話す力が高まるし、書く方は考える力が高まります。そういう研究をしています。
――やっぱり読んでいくと話す力って高まるんですか。
渡辺 中身をしっかりつかんでよむと話す力が高まる。文字だけではいくらよんでもダメです。文字を読んでいる限りは、結局、考えていませんから。
――結局、文字をなぞって内容はよくわかっていないということになるわけですね。
渡辺 ですから、理解しながらよむというのが表現よみの特徴になっています。
――朗読と、表現よみとは、どういうちがいがあるのでしょうか。
渡辺 朗読は基本的には伝えることが重点です。ですから、発声や発音などに重きがあります。ところが、表現よみの場合には、よみ手自身が必ず自分で理解しながら読んでいかなくてはいけない。ですから、一回一回ごとに新しい発見をしながらよんでいくこと、そういうよみです。
――表現よみも他者に対して伝えるという意識はあるんですね。
渡辺 そうですね。
――と同時に、自分自身がちゃんと理解した上でということですね。
渡辺 つまり、理解があってそれが表現になるのです。自分が分かっているものを、人に向けてデフォルメするというか、アピール度を高めていきます。朗読の人はむしろはアピールを先にやってしまいます。自分自身が理解するという点が弱いのではないかと、わたしは思っています。
――それで表現よみというのですね。
渡辺 はい。
――書くことでは、どういうかたが通信の添削を受けているのですか。
渡辺 一般の社会人の方ですとか、おとなの方が多いのですけれども、要するに学校教育の中では十分に勉強できなかったという思いのある人が多いですね。
――それは、たとえば企画書だったり、手紙だったり、内容はどういうものなのでしょうか。
渡辺 あらゆるものを受け付けていますが、基本的トレーニングは思考力です。文をどう作るかとか、文と文とをどうつなげるかというベースになるところをトレーニングで訓練しています。
――作文とか論文に近いかたちのものなのでしょうか。
渡辺 作文も論文も文章を作るのですが、考えること、文章を使って考えるトレーニングです。表現が微妙ですが、そういう添削トレーニング教室というものを行っています。
――そういう読み書きの指導していながら思われる日本語というものに対しての最近の、傾向はどういうものなのでしょうか。
渡辺 よく乱れているといわれますが、わたしは二つの面があると思います。一つは能力不足で乱れているガンです。もう一つは、異議申し立てというか、批評になっているものです。世の中の言葉づかいに対する批評の面があります。それは若い人も含めてのことです。両面があることをきちんと見ていかないと、ただけなしてもいけないし、ただ受け入れてもいけないと思います。
――能力不足というのはどのあたりが原因なのでしょうか。
渡辺 一つは、学校教育、とくに国語教育にあります。
――国語教育ってそんなに変わってきているものなのですか。
渡辺 わたしは深くは知りませんが、とにかく一般の人で、書く力、話す力に自信がないという方は残念ながら多くなっていると言えます。
――実際に、書く訓練、読む訓練というものをした記憶はないですものね。
渡辺 そうですね。朗読にしても、学校ではただ字を追って早くよめると、この人はすばらしいというのですね。
――たしかに、速くまちがえずに読めばすばらしかったという経験はありますね。
渡辺 先生も能率がいいのです。すらすらよめる読める生徒を指すと授業がすすむのです。でも、ゆっくり読んでいても、何か気持ちの入っている生徒というのはいますよね。一生懸命に考えて読んでいてね。
――先生が、時間を割いていないのですね。
まだまだ日本語のことをおうかがいしていきたいと思いますが、ここで一曲、リクエストをお送りしたいと思います。どんな曲なのでしょうか。
渡辺 題名を言うのですか。
――はい。
渡辺 五つの赤い風船の「遠い世界に」という曲です。学校の教科書にも入っていますけれども、もう三十年も前の曲です。理想を歌った曲で、わたしが若いころ聞いて感動して、いまだに感動し続けている曲です。
――それでは聞かせてください。「遠い世界に」。
(五つの赤い風船「遠い世界に」西岡たかし作詞・作曲)
――シュガー&スパイス。曲をお届けいたしました。今日はこの曲にリクエストをいただいた、コトバ表現研究所主宰、日本コトバの会講師兼事務局長の渡辺知明さんをスタジオにお迎えしております。
さあつづいて、日本コトバの会、こちらの方も話をおうかがいしたいのですが、どういう会なのでしょうか。
渡辺 昭和二十七年にできまして、今でも売れている本なのですが、『思考と行動における言語』(岩波書店)という言語学の基本的な本と言われています。これを――
――教科書としても使われているのですね。
渡辺 そうです。この翻訳をした大久保忠利という人が中心になって、翻訳の記念に読書会を開きまして、有名な人では鶴見俊輔さんなどそうそうたる学者がそろって作った会なのです。今でも、もう五十年になりますけれども、文章・話し方・表現よみ・小説・文法・ユーモア・言語心理という風にいろいろな部会を作りまして、そこで毎月、例会を開いています。
――どういう方が参加されているのですか。
渡辺 大学の先生もいますし、一般の主婦とか、あるいは社会人、あるいは学生とか、さまざまの人が勉強する会です。
――なるほど、日本コトバの会での「生きたコトバの四原則」というのがあるんですね。「正しく、分かりやすく、切れ味よく、ふさわしく」。こう言われると何かできそうな気がするのですけれども……。
渡辺 話し方についてコメントしますと、「正しく」は、単語のアクセントを強めるとか、きちんと文のかたちで話すとか、正しい内容を話す努力をすることです。二つめは、「わかりやすく」というのは、発声とか話し方ですね。文末までしっかり言うこと、そうすると責任が生じますので、三つめで、論理といいますが、「こうなのだ。つまり……」とか、「なぜなら」とか言いたくなりますね。それが「切れ味よく」です。四番目が、その場その場にふさわしい感じで話しましょう。
――「感じ」? 雰囲気……。
渡辺 「雰囲気」、「態度」ですね。
――これは、できてないんではないでしょうかねえ。
渡辺 これは目標です。
――日本語では、どんどん略していますね。ちゃんと語尾まで話しませんよね。アイマイですよね。
渡辺 アクセントが平板化していますね。節約してしまう。美人、映画、ドラマとか言いますが、あれは、ビジン、エイガ、ドラマです。
――あっ、エイガなのですか。
渡辺 そうですね。きれいですね。頭にきちんとアクセントをつけるとね。それも一つですね。アクセント一つで、ことばが生きてきます。これもただ上げるのではなく、強めるといいのです。アクセントは。
――なるほどね。
渡辺 そんなことも、コトバがきれいになる一つの条件だと思います。
――それではきれいな日本語というものを、ぜひ一つ聞かせていただきたいのですが、先生が提唱していらっしゃる表現よみをしていただけるということで、梶井基次郎作「愛撫」ですね。それではよろしくお願いいたします。
(梶井基次郎「愛撫」冒頭)
――はい、ありがとうございます。最近、自分が聞いていた日本語とちがう、さっきおっしゃった美しくて、正しく、わかりやすく、切れ味よくてという、いろいろな要素が感じられました。
渡辺 ありがとうございます
――これは何回も読み込んでいるのですか。
渡辺 あまり読んでしまうとダメなのです。よく暗記する人がいますが、暗記してしまうとだめなのです。思い出すだけで終わってしまうのです。わたしの場合は、できるだけ隠しておいて、いつでも初めて見るつもりでドキドキしているのです。次にどんな文章が出てくるのかなという期待感がないとダメなのです。見た瞬間に反応して、自分の心が揺れて来ないと、うまく読めないのです。そんな読み方につとめています。
――普段は自分は日本語がしゃべれるので、英語など外国語に意識が行きがちだと思うのですが、日本語をもっと美しくしゃべりたいなと思った人は、どのあたりから始めればよいでしょうか。
渡辺 「三つの訓練法」というのを言っています。一つは、音読してみましょう。声を出して読んでみましょう。最初から表現よみとは言いませんから。新聞のコラムを、わたしは毎朝トイレの中で声に出して読んでいます。
――声に出して?
渡辺 声に出して。それも、大きい声を張る必要はありません。自分で内容をキャッチできた分だけ声に出してみるのです。しっかりと瞬間ごとに理解できているかと意識しながら読むのです。たどたどしくていいのです。これが一つです。もう一つは、大学ノートでいいですから日常的にしゃべるつもりで書く練習をするといいのです。書く力が話す力に転化します。相互作用です。もう一つは、本を読むときに印しをつけましょう。べつに三色でなくてもいいので、一色で結構ですから、丸をつけたり、線を引いたり、波線をつけたりするのです。今わたしの手もとにさっきよんだ台本がありますが、これにはいろいろな印しが付いています。文章を区切ることによって、音楽を理解するときに楽譜を音に変えるようなつもりで印しをつけていくのです。
――たしかに、わかりやすいですね。その三つぜひやっていただきたいですね。ちょっとCMをはさんで、先生の今後のご予定など聞かせていただきたいと思います。
(CMが入る)
――ヒルサイド・アヴェニュー、引き続きコトバ表現研究所主宰、日本コトバの会講師兼事務局長の渡辺知明さんをお迎えしています。
やってみます、わたしも、朗読!
渡辺 はい、お願いします。わたしの教室にも、アナウンサーのかたが来ています。
――そうなのですか。アナウンサーのかたの読むものとはちがうのですよね。
渡辺 本当の意味でのコトバの訓練ができます。わたしは「心とコトバの一体化」と呼んでいます。一体化した表現がいちばんいいのです。
――今、ここに台本があるのですけれども、わたしも、初見でもいろいろな記号が付いているので読みやすかったです。一度もまちがえることなく読めてしまって。
その記号なども、先生のホームページに書かれていますので、ぜひみなさんもそちらからご覧になってみてください。それから先生、今後のご予定などありましたら教えていただけますか。
渡辺 三月六日に、「第5回・渡辺知明・表現よみ独演会」というものがあります。会場は山手線の大崎駅前です。駅で降りてすぐです。
――そちらも詳しくはホームページをご覧になっていただきたいと思います。では、最後にもう一曲、先生のリクエストをお送りしたいと思います。これはちょっと変わったタイトルですね。どういう曲なのですか。
渡辺 「しらみの旅」ですね。シラミは今はいなくなったそうですけれども、われわれもシラミのように旅をしているのではないかと、そういうことを三十年前くらいに歌った人がいました。
――高田渡さんですね。はい、「しらみの旅」を聞きながら先生とお別れです。どうもありがとうございました。
渡辺 どうもありがとうございました。(了)