2007年10月26日

文を理解する山カッコ―層としてのよみ

 全国学力テストの結果が発表されて、小中学生の国語力の問題は、漢字の読み・書きではなく、文章の読み・書きであることがますますはっきりしています。

 では、おとなたちはどれだけ正確に文章を読んで理解しているでしょうか。また、正確に文を読むための方法は自覚しているのでしょうか。試しに、次の文章を丁寧に読んでください。

「バブル期は、結果としてお金がたくさん手に入るのが成功とされた時代でした。何をやってもとにかく儲かればいい、という人間のさもしさが、前面に出たすごく「卑しい」時代だったと思います。ビジネス本来のルールが忘れ去られ、人々が争って不動産売買や株式運用や為替の売り買いに明け暮れていた、個人的印象を言わせてもらえば本当に嫌な時代でした。バブル経済の時代をいまだに懐かしがる人がいますが、どうしてあんな時代が懐かしいのか僕にはぜんぜん理解できません。」(内田樹『疲れすぎて眠れぬ夜のために』2007角川文庫76ページ)
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 わたしは文章に「印しつけ」をせずには読めません。主語(ダレガ・ナニガ)にマル印し、述語(ドウスル・ドウダ・ナニダ)に線を引いたり、接続語を□で囲んだりします。とくに重要なのが〈 〉(山カッコ)です。上の文章に、赤字で山カッコ(名詞句のくくり)と( )(内言のことば)とを入れて示しましょう。

「(1)バブル期は、
〈〈結果としてお金がたくさん手に入るのが成功とされた時代(註=外がわの〈 〉を選ぶ)
でした。
―骨格文=AはBでした。

(2)〈〈何をやってもとにかく儲かればいい、という人間のさもしさが、前面に出たすごく「卑しい」時代だった(註=外がわの〈 〉を選ぶ)
と思います。
―骨格文=(Aは)Bだったと思います。

(3)〈〈ビジネス本来のルールが忘れ去られ、人々が争って不動産売買や株式運用や為替の売り買いに明け暮れていた、個人的印象を言わせてもらえば(本当に嫌な時代)〉
でした。
―骨格文=(Aは)Bでした。

(4)〈〈バブル経済の時代をいまだに懐かしがる人がいます
(どうしてあんな時代が懐かしいのか)僕にはぜんぜん理解できません。
―骨格文=Aがいます(しかし)(それが)Bには理解できません。

 (1)に主語=「バブル期は」があります。それを(1)(2)(3)で3つの「時代」が述べられています。(4)はそれに対する書き手の感想です。〈 〉でくくると単純な「骨格文(文の骨組み)」が見えてきます。

 (2)で〈 〉は3段階につけられるのですが、どのレベルに注目して〈 〉をつけるかが、問題のとらえ方のレベルになります。こうして、説明をすると面倒ですが、よみながら〈 〉のレベルを選択することが内容理解の決定するのです。〈 〉も( )も、文における「対話の構造」(ミハイル・バフチン)の要素です。
posted by 渡辺知明 at 16:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 文章表現 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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