本来の朗読の目標は、ただ単に文字から受け取れる情報を伝えるだけではなく、文体の感情まで表現することである。文学作品のテキストの「語り口」の再現である。「おや、ヘンな感じだ」と思う朗読は、たいてい作品の「語り口」をとらえ損なっているのである。
・学校よみ―文節ごとにぶつ切りにして末尾で力む。文としての意味がつながらない。
・ヒロシよみ―お笑いのヒロシや有名女優Yさんののように常に声が感情的に泣いている。
・講談よみ―よみだしの2音節目を強める。セリフが型にはまっている。
・落語よみ―ゆったりと語る口調。講談よりもネバリがある。
・アナウンサーよみ―男性アナウンサーの場合、地声一本やり。プロミネンスがない。すべての音が聞こえすぎる。
・高低アクセントよみ―女性アナウンサーの場合、高アクセントがウラ声がかってしまう。これは宿命的なものだ。
・ナレーターよみ―テレビCMのナレーションのようなオーバーアクションの表現。作品の「語り口」と関係ない表現。
・ドキュメンタリーよみ―テレビで外地の特派員の語り口。遠くから呼びかける声。
・天に向かったよみ―教会の聖書朗読のようなよみ。聴き手に聴かせる意志のない声。
・外国人吹き替えよみ―外国人のコメントを紹介するときの吹き替え。早口で無感情。波打つような滑らかな口調。
・アニ声優よみ―女性の声優のブリッコ声が鼻にかかっている。タレントのMちゃんが典型。
・演劇よみ―舞台俳優がハイテンションで読み上げるのでセリフは総てナマ声の舞台セリフ。
・外国映画吹き替えよみ―友近さんがマネている型にはまった感情表現の声。驚いた、怒った、泣いたフリの表現。
これらのスタイルが無自覚に朗読に持ち込まれている。コメントだけでは分かりにくいところもありそうなので、近日中に芥川龍之介「蜘蛛の糸」をテキストにして実験的な録音をしてみようと思っている。