2007年08月19日

朗読と「語り」のための小説――吉川トリコ『しゃぼん』と辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』

 「語り口」がすばらしく、内容もすばらしいという小説はなかなかない。しかし、最近、次の2冊をおもしろく読んだ。

 ●吉川トリコ『しゃぼん』2004新潮社
 ●辻原登『円朝芝居噺 夫婦幽霊』2007講談社

 表題作「しゃぼん」の主人公は30歳になろうとする女性で自らの「語り」の形式だ。一見、なんということはない日常的なつぶやきの向こうに主人公の置かれた状況と生きる迷いが浮かびあがる。太宰治「女生徒」を思わせるみごとな「語り」だが、それ以上に、作者の批評の精神に魅力がある。
しゃぼん
しゃぼん吉川 トリコ

おすすめ平均
starsとなりの生活
starsもう一声!
stars胸がキューッとなる本
stars全ての女性にお勧めします
stars意外と淡々

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 『円朝芝居噺 夫婦幽霊』は、作者の「語り」による構成である。そこで展開されるのは、円朝の速記本を巡る話題である。そうして紹介される円朝の「夫婦幽霊」がおもしろい。まさに円朝が語ったかと思われる生き生きとした「語り」である。終わりごろになって、二葉亭四迷からの引用や中島敦「悟浄出世」に似た表現が出てくると、「おや、これはフィクションなのか」と疑うたのしみもある。
円朝芝居噺 夫婦幽霊
円朝芝居噺 夫婦幽霊辻原 登 菊地 信義

おすすめ平均
stars円朝作としては、物足りない・・・。
stars非常に上手い構成の洒落た作品
stars落語を聞く楽しみがひとつ増えたかも

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 というわけで、この2冊は朗読や「語り」をする人たちがとりあげるのに最適の作品なのである。わたしも近ぢか表現よみしてみようと思っている。(2007/10/2追加=声でよむ名作本シリーズ『しゃぼん』『円朝芝居噺 夫婦幽霊
posted by 渡辺知明 at 08:10| Comment(1) | TrackBack(1) | 本と読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
TBさせていただきました。

速記の発展の様子とか、いろいろと読みどころがあって面白く読みました。
Posted by タウム at 2007年10月25日 14:07
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Excerpt: 「円朝芝居噺 夫婦幽霊」 三遊亭円朝。 落語界では、伝説の名人なんでしょうね。 著者の並々ならぬ円朝に対する情熱が伝わってくる本でした。 円朝芝居噺 夫婦幽霊辻原 登....
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