2007年07月24日

朗読の聴き方―「と」と「が」の表現力

 朗読を聴いていて気になるのが「と」と「が」です。朗読の理想として「語るように読みたい」とはよく言われます。しかし、どこをどのように読んだら語るように聞こえるかについてはほとんど聞きません。

 わたしは朗読を聞くときのよみ手の評価規準として「と」と「が」に注目します。この二つのよみ方でよみ手のよみのレベルが評価できるほど重要なのです。

 「と」というのは会話のあとに続く助詞です。たとえば、次のような場合です。

 「また来ましたね」と先生は言った。(こころ/夏目漱石)

 「と」のよみ方で二つの点が問題です。一つは、声質、もう一つは、区切り方です。声質については、「と」が目立つようなよみ方ではいかにも読んでいるように聞こえます。おもしろくありません。「と」は裏声で飲み込んで間合いのようにしたいものです。義太夫でいうところの「強い裏声」です。(米山文明『美しい声で日本語を話す』2007平凡社新書97ページ)
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 そして、もう一つ、「と」の区切り方には三通りあります。(1)「と」の前で切る。(2)「と」の後で切る。(3)「と」の前後で切る――わたしの経験では、(1)は10%、(2)が85%、(3)が5%くらいの割合です。つまり、ほとんど、「と」の後で切ればよいのです。そうすると、読んでいるように聞こえなくなります。

 ちなみに、上の「こころ」の例は(1)で読みます。(1)は会話が感情的に高いとき、強い調子で終わるとき、叫びや呼びかけなどの場合です。ですから、なおさら「と」が「強い裏声」で耳には響かないように、間合いとしての強さを表現してもらいたいものです。

 「が」とは、接続語の「が」のことです。たとえば、次のような例です。

 が、女は馬も下りずに、待っているというのです。(藪の中/芥川龍之介)

 「が」は鼻濁音です。鼻濁音はたいていアクセントをつけて読まれる強い音(オン)です。強さを秘めているが故に柔らかい当たりを要求されるのです。それで鼻にかけてソフトな音(オン)に響かせます。力を入れつつ、うるさくない声にするのがむずかしいのです。だから「が」のよみ方が、読みのテクニックの評価規準になるのです。

 これは接続助詞の「が」です。よみ方は強アクセントをつけて「(ん)が」というように読みます。そして、「(ん)が女は」までは続けて読みます。その後で切ります。「ん」の声は聞こえません。声の背後で表現の強さを支えます。演歌で言う「タメ」にあたる力の入れ方です。

 さて、以上のようなことを意識して朗読を聞いてみてください。「と」と「が」のよみ方だけ聞いも、よみ手にどのくらい表現力があるか評価できると思います。
posted by 渡辺知明 at 18:03| Comment(0) | TrackBack(1) | 音声表現 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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