2007年06月09日

「鼻」と「花」のアクセント

 芥川龍之介の作品に「鼻」がある。このタイトルを朗読するとき、「花」と区別して聞こえるように発音するのはむずかしい。それは、高低アクセントに頼って、強弱アクセントの訓練がされていないからだ。
 
 「花」は高低アクセントでいうと尾高である。ハとなる。よく使われる技法でいうなら、「ハガ」と格助詞の「ガ」をつけて発音したときに、「ナ」で高くなり、「ガ」で低くなる。これを発音するのはやさしい。

 ところが、問題は「鼻」である。これは高低アクセントでは平板とされる。平板というのは、高くなるところがないということである。だから、たいていの人が力無く「ハナ」と発音する。だから、たいてい「鼻」の意味には聞こえない。(試しにやってみるといい)

 じつは、高低アクセントでいう「平板」というのは、単なる平板ではないのである。「ハナ」の「ナ」に強アクセントがあるのだ。そして、格助詞の「ガ」をつけた場合にも、「ハナガ」では、「ナ」に強アクセントがあり、「ガ」では力が抜けるのだ。そうしないと、「花」と「鼻」の区別がつかないのである。「鼻」については、高低アクセントの原理では明瞭に発音できない。強アクセントの実践が必要なのだ。

 ところが、この強アクセントがなかなかできない。というのも、一般に音声表現の理論では、日本語のアクセントは高低とされているし、実際に発声・発音の訓練では、強アクセントは訓練されてないからだ。現代の日本語のアクセントの理論は、高低アクセントでは解決できない問題がいろいろある。だから、それに加えて強弱アクセントの考えを取り入れる必要がある。

 かつて、昭和10年代には日本語のアクセント理論は完全に固定されていなかった。さまざまなアクセントの考えが交錯して議論されている他。日本語のアクセントは二音節にあるとか、語末にあるとかいう議論もあった。今、朗読が盛んになり、日本語の音声化が問題になっているとき、あらためて高低アクセント絶対とする理論の再検討が必要である。
posted by 渡辺知明 at 09:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 音声表現 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 試しにやってみました。
関西の場合は「花」は高→低でしたね。今まで気づきませんでした。それで「鼻」は平板で標準語とほぼ同じですが、音の高い位置で中→高と発音することもあります。ここが関西弁の微妙さで、関東圏の役者さんが関西弁をやるときに苦労される点でしょうね。
 ところで、以前に強弱アクセントは、アゴを引いて発音するのが強、引かずに発音するのが弱ということを教えていただいたと思うのですが、まだ具体的な発音の違いを取得するに至っておりません。
 強弱アクセントは音楽でいうところの音色に近い概念になるんでしょうか。
Posted by 難波鷹史 at 2007年06月12日 13:06
 難波さん、コメントありがとうございました。遅くなりましたが、反応を書きます。
 強アクセントというのは、「アゴを引く」というよりも、ツバキを飲み込んだようにノドの奥で発音する音(オン)です。
 わたしは「地声」の発声法を、軽い声と重い声とに分けています。その重い方です。ちなみに、軽い声の訓練は正面向きで「マッ」といいます。重い声では「ダッ」といいます。
 音楽の音色は「高低アクセント」によるメロディーになるでしょうか。わたしのは、むしろジャズやロックなどのリズムに近いでしょう。
Posted by 渡辺知明 at 2007年07月01日 07:41
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