2007年04月15日

幼児の言語発達とおとなの発音

 『国語の授業』199号(一光社2007/4)に大久保愛(国立国語研究所名誉所員)氏が「幼児の言語発達過程とことば育て」という論文を書いている。そこに、おとなの発音と発声を考えるうえで面白い指摘があるので紹介する。

 大久保氏の研究は幼児の言語発達を綿密に記録調査したものにもとづいている。それによると、幼児期(1歳ごろまで)の音声の発達は次のような順序だそうだ。

 「音声の準備のできる時期で、母音の「ア」からはじまって「ウ」「エ」「イ」「オ」の順序で修得」(10ページ)

 実際に発声してみると分かるが、この順序で口の緊張が強くなって行く。「オ」の口の緊張は、おとなでもなかなか厳しい。子どもならなおさらだろう。ここから言えるのは、おとなも訓練をしないと、「エ」「イ」「オ」などの発音はアイマイになりがちだということだ。すでに、言語発達を通過してきたおとなが、必ずしも「おとな」の発音ができるとは限らない。これは今の若者たちを見ても分かる。

 もう一つ、子音の発音の発達についても次のように指摘している。

 「子音は母音よりもおくれるが「バ」「パ」「マ」「ン」から「タ」「ダ」の順序である。」(11ページ)

 ローマ字で表せば、「B」「P」「M」「N」「T」「D」となる。とくにむずかしいのが、「D」の音(オン)である。わたしが行っている発音のトレーニングでは、「マ(軽い声)」と「ダ(重い声)」の発声を交互に行う。むずかしいのは「ダ」の発声である。これは安定した地声の発声である。幼児の発達においてむずかしいものが、ここでもおとなに共通するものとなっている。

 「ダ」に代表される地声の声が声の表現においては重要なのである。「青い空」「白い雲」などの語句では、「青い」「白い」の修飾部分が軽い声になり、被修飾部分が重い声になる。これがなかなかできない。ナレーションなどでは、修飾部分を軽くするのはいいが、被修飾部分に高いアクセントを加えてしまう。これが逆イントネーションに聞こえてしまうので不安定になるのだ。それでも、ナレーションやアナウンスの場合はいい。朗読などの文学表現になったときには、それは表現ではなく、文章の読みあげか読み聞かせのように聞こえてくる。

 さて、結論はこうである。幼児の言語発達において通過してきた発声や発音であるが、おとなのわれわれが必ずしも、おとなとしての発声や発音ができているとは限らないのである。生涯教育の基礎は意外にも、幼児期からの発達過程をあらためて振り返ることにあるかもしれない。世は健康ブームで肉体の衰えを防ごうと血眼であるが、意外に、声については訓練しだいで若さを保てることが忘れられているようである。
posted by 渡辺知明 at 12:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 音声表現 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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