【連載】第20回
●本のすすめ方
「わたしはセルフラーニングを重視しています。先生がいなくても勉強ができる方法の工夫です。公文式から出た人が考えたラクダ式という教育方法があります。ラクダ式の算数数学といいます。わたしの研究所のスタートは、このラクダ式の教育として、算数・数学の通信教育をやっていました。
「今でも、わたしの基本的な考えはセルフラーニングです。公文式の場合には、採点をするのは別の人です。ところが、ラクダ式では、ストップウォッチを使って自分で時間を計って自分で採点をするのです。今、百マス計算というものが流行っていますが、あれは岸本さんという人が開発したものです。景山さんは、岸本さんから学んだのです。
「ラクダ式では、自分で採点をします。自己採点です。自分でストップウォッチで時間を計って、自分で記録表に結果を記入をするのです。ところが、百マス計算は先生が時間を計っています。それでは依頼心が育ってしまいます。
「子どもの自主性を育てるためには、なんでも押しつけない方がいいのです。たとえば、わたしは学生に本をすすめるとき、こんな言い方をします。
――大きな声では言えないけれど、むかしは発売禁止だった小説が今では読めるのだよ。とんでもないシーンがあるのだけれども無削除で出版されているんだ。ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』という小説だよ。
「わたしは、小沢書店から発売された『チャタレイ夫人の恋人』という小説を学生時代に買いました。ところが、今では、翻訳者の伊藤整の息子である人が、新潮文庫で無削除版を刊行しています。これまでは、性描写の場面はカットされていました。そこがすばらしい描写なのです。花が小道具として使われる場面が印象的です。関心ある方は、今は手に入りますからぜひお読みください。
チャタレイ夫人の恋人 | |
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「不思議なことに、堂々と出てしまうとこういう本も読まれないのです。学生のころ、わたしは上下二巻の初版の本を神田を歩いて探しました。当時、一冊1500円くらいしました。今の人は露骨でエロチックな作品はよむのかもしれません。しかし、文学的な想像力を刺激しません。ほかにも永井荷風の作品や、『チャタレイ夫人の恋人』のようなものは、性の描写も美しく想像させるように書かれています。
●山カッコでくくる
「話を戻しましょう。まず、マルとセンです。接続語は必ず四角で囲みます。ないしは指示語です。これらは四角で囲みます。これが印しつけよみです。問題は、山カッコです。どこにつけるかというと、長い名詞句です。わたしは小説も書いていますが、最近、ある教訓を得ました。わたしの知り合いが中国の人です。開封大学というところの日本語の先生です。わたしの書いた「クロの話」(聴けて読めます)という作品を、中国語に翻訳してくれました。訳したあとで、十五項目の質問がメールで届きました。これで中国の人には何が分かりにくいか知りました。この山カッコのつくことばが分かりにくいのです。長い名詞句です。たとえば、「何々が何々する何々のこと」という部分です。それについての質問が半分近くありました。これは良い教訓でした。
「次の部分を半分に書き直してくださいという質問がいくつもありました。日本語学科の学部長がそういう質問をするのです。ですから、学生諸君が分かりにくいというのも無理はありません。日本人の学生でもきっと同じことでしょう。長い名詞句を、山カッコでくくるのです。くくらせて読ませるのです。添削をするときにも、長い山カッコの部分を単文に書き換えるかどうかも一つのポイントになります。
「まとめて言いますと、やたらと長い文章でも山カッコでくくることによって、簡単な文の構造が見えてくるのです。例えば、「……が、……と、……に、……を、……した」という構造の中に、山カッコでくくられる名詞句がはめこまれるという具合です。
「学生諸君の書いた文章の要約の課題の中にも、山カッコでくくられる部分が取り出されるわけです。例えば、この学生はとてもよくかけていました。くくるべきことばをちゃんとキャッチしていました。モチーフはありませんが、文章に書かれた限りの要点を取り出してまとめています。山カッコでくくられるところを拾い出して、つないでいるという意味では要約ができています。(つづく)