2006年06月05日

文章推敲力をつける添削入門(18)大学編

◎ある大学で文章添削の実践者のための講義をしました。あらためて驚いたことは、文章の書き方の本は数多くあっても、添削や推敲について書かれた本がほとんどないということです。そこで、わたしはあらためて、文章力の養成を、添削と推敲の角度から考えることになりました。2日間で通算7時間の講義の記録に手を入れて少しずつ公開します。(2006.2.21、2006.3.7。第1−12回は旧サイトにあります)

【連載】第18回
第3章 添削の方法と手段

 「それでは、添削の方法と手段の項目に入りましょう。前おきでお話ししたことに追加して、実践的に詳しくお話しします。

(1)印つけよみ
 「第一が、印しつけよみです。学生にただ本を読ませるだけではなくて、必ず印しつけをして読ませるのです。わたしの読んでいる本をお見せしましょう。(参考画面

 「こうしてよまないと、わたしはじっくりと本が読めません。先ほどお話しした補習塾の中学生たちには、こうして本を読ませました。本を汚すのが嫌いな人もいるでしょう。また、図書館の本は汚してはいけません。しかし、わたしには次のような原則があります。
 「本は汚して読め。汚さなければ自分の本にはならない」

 「印しつけは文章の分析作業です。文章から何をよみとるかという実践です。しかも、読書の記録にもなります。まっさらでしたら、何を読みとったのかわかりません。また、おもしろいことに、印しのつけ方でその人の本の読み方が分かります。文章の何を読み取っているか、どのように文章を理解しているかが足跡として残っているのです。

 「じつは、赤ペンで添削をすることも文章を読んだ証拠です。わたしはていねいに読む本には必ずは印しつけをします。内容の読みとりの場合にはエンピツで、批評的に読むときには赤ペンで印しつけをします。たとえば、今回の学生に要約の課題として出された文章は赤ペンを入れました。ご覧ください。このように徹底的に印しつけをしました。

 「印しつけとは、ていねいに本をよむための一つの手法です。文章をただ目で見ていただけでは内容に集中できません。ですから、文章に操作を加えることによって文の構造を取り出すのです。文の構造を見ることによって文の内容が分かるのです。また、印しをつけた単語をもとに、自分なりの文を組み立てるのです。

 「めんどうだという人がいます。それはまんべんなくつけようとするからです。すべての本を印しつけで読まなくてもいいのです。むずかしそうで読みにくそうな本や、読んでいって読みとりにくい部分になったらつければいいのです。

 「原則となる印しはたくさんはありません。まず、マルセンです。文の骨組の理解です。主部にマルをつけて、述部にセンを引きます。わたしはこれを学生時代にカントやヘーゲルの哲学をよむときやりました。やさしい文章ならつけなくてもわかります。しかし、むずかしい文章には必要です。今は、幸田露伴の『努力論』(岩波文庫)で実行しています。これは内容も形式もおもしろい文章ですよ。主部と述部との印しは初歩の初歩です。
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 「わたしはマルやセンは七文字よりも長くしないという原則を立てています。学校の授業で「そこが大事だから線を引きなさい」と、何行も線を引かせることがあります。それでは、どこが大事なのか絞り切ることができません。ゲーテはすごいこと言っています。「すべてが見える目は何も見えないのと同じことだ」というのです。おもしろいでしょう。すべて線を引いたら、線を引かないのと同じことです。わたしはもっと短く単語に限定してセンを引きます。さらに、よいところには◎や○、わるいところには三角印、疑問の場合には?、などの記号をつけます。(参考画面

 「これも、この学校の添削指導の共通ルールとして使えそうです。三角がついていたら、そこは書き直しをしなさいという印しというのはどうでしょう。添削ではそれ以上に手を入れることはありません。書き手が考え直せばいいことです。また、文が長すぎる時にもセンを引いて「長い」と書けばよいでしょう。その場合も書き直しは書き手です。

 「長くなってネジレた文の書き直しの原則があります。長い文はたいてい、重複文、複文、重文です。それを単文に書き直します。そして、接続語でつないで論理を明確にすることです。どの文章の本を見ても、書かれている原則です。書いてあるけれども、どうやるかは書いてありません。ほかにも、起承転結が大事だと書いてある。しかし、どうやって訓練すればよいかは書かれていません。

 「添削者がするべきことは、重複文、複文、重文を単文に区切ることです。そして、主部と述部とのつながりを読みとります。複雑な文も、基本は主部と述部の組み合わせからできています。単文にすると長くてネジレた文のアイマイさがはっきりしてきます。添削者はこの原理を身にしみるほどしっかりと覚えておくことが大切です。

 「印しつけの原則は、マルでもセンでも、五行六行と長く伸ばして引かないことです。こんな工合です。(板書する)。そして、印しをつけるにはできるだけ柔らかいエンピツを使います。

 「これは出版社にとってもいいことです。「本は綺麗に読みましょう」というと、いつまでたっても本が消耗されません。しかし、わたしの本は古本屋に売れません。「お宅のは、線が引いてありますからね。」と言われてしまいます。「わたしのは消しゴムで消えます。」といっても、「お宅のはね……」と言われます。まちがいなく本が消耗されます。

 「そのかわり、わたしは本を人にあげます。すると、印しを喜んでくれる人もいます。以前に、日本文学の研究者のまとまった本、『片岡良一著作集』を文学の研究者に無料で譲ったことがありますが、そのときには、「印しがたくさんついているので、いろいろと参考になります」といわれました。まあ、これは例外です。

 「接続語と指示語は四角で囲みます。そして、並んだ項目には、センを引いて丸数字をつけていくということは、前にお話ししました。(つづく)
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