2006年06月03日

文章推敲力を育てる添削入門(17)大学編

◎ある大学で文章添削の実践者のための講義をしました。あらためて驚いたことは、文章の書き方の本は数多くあっても、添削や推敲について書かれた本がほとんどないということです。そこで、わたしはあらためて、文章力の養成を、添削と推敲の角度から考えることになりました。2日間で通算7時間の講義の記録に手を入れて少しずつ公開します。(2006.2.21、2006.3.7。第1−12回は旧サイトにあります)

【連載】第17回
●抽象化と具体化の論理
 「もうひとつ重要な論理の考え方に、上位概念と下位概念があります。文章の展開では、抽象化と具体化の問題になります。これも対立する接続語の使い方で教育できます。

 「最近ではパソコンを使う人が多いので、パソコンのデータフォルダを例にしましょう。いろいろなファイルを作るとき、それぞれのファイルを、どのフォルダーにおさめるかという考え方です。分類の仕方です。これもいい論理訓練になります。

 「学生たちにはこんなふうに話します。
「君もパソコンを持っているだろう。そのファイルはどのように分類するのかな。フォルダを作って分類をするでしょう。それと同じで、話しをするときにも、今、自分はフォルダーの話をしているのか、中のファイルの話をしているのか、考えるです。それが抽象と具体との関係なんです。」という具合です。

 「また、こんな例もあります。甘いものの好きな人が、「私ね、甘いものが大好きなのです。毎日のように食べていますわ」と言います。ここに「たとえば」をつないだときに話しが分かりやすくなります。「たとえばね、羊羹なんかまるまる一本食べてしまうのですよ」「チョコレートなんか一本まるまる食べしまうのですよ」というのです。これが具体例です。「甘いもの」という抽象が「羊羹」や「チョコレート」で具体化されるのです。

 「話しの構成でも抽象化と具体化が関係あります。わたしもこの講義のためにレジュメを作りました。話すべき事柄を箇条書きの文でどんどん書きました。そのうちに、中心となるが見えてきます。最初に考えた柱ではなく、見えてきた柱で事柄を分類をしました。柱に入った事柄はさらに細かく分けて分類して行きました。柱に入らない事柄は切り捨てるか、あるいは、新たな柱を立てて、事柄を追加してより詳しくします。

 「パソコンで言うなら、事柄がファイル、柱はフォルダです。文章で言うならば、フォルダは章や段落です。書くときにはもちろん、読み取るときにも、フォルダとファイルの意識が重要です。段落というフォルダの中にファイルにあたる命題である文が書き込まれているわけです。抽象と具体の意識です。文のまとまりとして段落が展開するのです。原則は、結論を先に述べて、それから「たとえば」ないしは「なぜなら」を述べることです。

 「添削をする場合にも、このような文章の論理的な組み立てを見ます。また、展開のながれというものもあります。段落の配置と展開とを見ながら、段落に入れるべき事柄や文を判断します。不要なものは削り、必要なものを加えます。文章のながれからみて、別の段落に入れるべきことは前後に移動させます。「添」も「削」も、部分だけ見たら判断できないのです。

 「というわけで、添削というものはなかなかむずかしいということになるのです。以上が文章の何を直すかということです。

●接続語の対立関係
「接続語には対立関係があります。対立する接続語が対になっています。今お話しした「たとえば」の反対は何ですか。「たとえば」は具体化の接続語です。それに対して抽象化の接続語は何でしょうか。「たとえば、羊羹なんかまるまる一本食べてしまいます」といいましたが、その逆の順序で、「チョコレートなんかバレンタインチョコを一日で食べてしまいました」と先に言う言い方があります。その場合には、あとから、「つまり、私は甘いものが好きなのです。」と言うのです。「つまり」なのです。話しが「詰まる」という意味の「つまり」です。

 「おしゃべりの人で話がまとまらない人がよくいますね。喫茶店なんかで話していると、次つぎといろいろなことを並べていくだけで、話しがまとまりません。「羊羹が好き、饅頭が好き、チョコレートが好き、飴が好き」と、同じ種類の話しを何度も繰り返します。ですから、「つまり、甘いものが好きなのですね」といってやればいいのです。相手も「そうです、そうです」ということになります。

 「文章でもこれと同じことが言えます。抽象的に書いていいところと、具体的に書くべきところがあります。とくに重要なのは、具体化してしなければいけないところです。言語表現というものはうっかりすると抽象化する傾向があります。具体化ができてないと、荒っぽい文章になります。自分で文章を書くときにも、人の文章を添削するときにも、文章のながれの中で考えます。「ここは抽象的でいいな、ここは具体的にするべきだな」と判断するのです。(つづく)
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