これを機会に、宮沢賢治記念館から『「銀河鉄道の夜」の原稿のすべて』(1997宮沢賢治記念館/入沢康夫監修・解説)を入手して、全83枚の生原稿の写真版を見た。これまで、あえて元の原稿を見ずにいた。わたしの添削が影響されるのをおそれたためである。(『「銀河鉄道の夜」の原稿のすべて』は宮沢賢治記念館に注文すると1700円+送料340円で入手できる)

しかし、わたしは文章添削の指導をしてきたので、賢治の意向を生かした添削にはある程度の自信があった。この作品は未完成の作品で、完成まで行かないまま公表されたという噂を聞いていたので、途中から徹底的に添削を加えていった。もちろん、作品の意図とテーマとを行かす方向を目指してのことである。
ナマ原稿を見て、まず感動した。活字ではない、ナマの文字のあとから、賢治の朗読の声が聞こえてくるような美しさがある。そして、推敲のあとを見て、わたしは自分の仕事が賢治の思いを裏切っていないことを感じた。一つ一つの語句や文章に加えられた、鉛筆やインクの後がその思考のあとが浮かび上がってくる。
これまで、「銀河鉄道の夜」の作品構成からの研究は様ざまあった。しかし、語句や文章の細々した角度からの検討は、おそらくないであろう。その意味で、今回のわたしのドラマリーディング台本作成は独自の意義があると思う。そして、いつも添削のたびに感じることであるが、細部から作品の構造全体に通じる多くの発見があった。「細部に真実が宿る」―これは真実のことばである。