この作品のよみを聞いたのは初めてだ。今年の太宰治没後60年と来年の生誕100年を機に注目すべき作品だと思う。
わたしは以前に『表現よみとは何か』を書くときに文体分析にもとづいてよんだことがある。さまざまな「語り手」が混在している文体だ。太宰治がロシア文学者のドストエフスキー論をヒントにして書いたという説もある。
山口葉子さんは、そのいくつかの「語り口」を見事によみ分けている。
朗読というと単調に単一の調子で読み上げるのが通例だが、山口さんのよみには、複数の語りの声がある。これがおもしろい。
また、選評でおもしろかったのは、応募作品を4つに分類した次の項目だ。なるほどと思う。わたしは(4)は表現よみだなと思った。
今回の作品の傾向を分類すると次のようになります。
(1)朗読の初歩としてまじめにていねいに読み上げた作品
(2)作品をはなれて自分なりの大胆な冒険を目ざした作品
(3)既成の朗読やナレーションを手本にしてよみ上げた作品
(4)作品の世界をとらえて芸術的な表現をした作品
わたしはこの分類を参考に応募作品を聞き直してみた。すると、朗読作品の評価の基準と言うものが見えてきた。今後、朗読を聴くときの参考になるだろう。