2008年09月22日

文章推敲力を育てる添削入門講座(32/35)大学編

◎ある大学で文章添削の実践者のための講義をしました。あらためて驚いたことには、文章の書き方の本は数多くあっても、添削や推敲について書かれた本がほとんどないということです。そこで、わたしはあらためて、文章力の養成を、添削と推敲の角度から考えることになりました。2日間で通算7時間の講義の記録に手を入れて少しずつ公開します。(2006.2.21、2006.3.7。第1−12回は旧サイトにあります)

【連載】第32回
●語句を取り換える
 今度は語句を入れ替える場合です。
 あらためて繰り返しますが、添削をする時には、文章を頭からじっくり読んでいくことです。書かれた順に読んでいって、すっきり内容が入ってくるのがよい文章です。これを語句の入れ替えの原則とします。文の入れ替えの原則もこれです。

 まず気になるのは、長い修体文素が重なった文章です。「……し、……し、……し、……している私」といった言い回しです。新聞の投書などで、「……し、……し、……し、……しているこのごろです」という文を見かけます。

 これは絶対にやめた方がいい表現です。読み手にとって不親切です。なかなか結論が出てきません。肯定するのか否定するのかわからずに、読んでいかなければなりません。しかも、終わりで意味をひっくり返すこともできます。

 前にお話しした借金を申し込むときの話し方みたいです。文章の場合には、目で見ているから先に飛んで結論が分かります。しかし、話しの場合、聴き手は耳で聞いていますからイライラしてしまいます。十秒前の音は記憶から消えるのだそうです。

 つまり、文章においても、耳から入る音(オン)を重視するのです。読み手の頭に入りやすい語句の並び方にします。まず、言うべきことを言ってしまうことです。原則として単文で言い切ります。そして、そのあとに必要な内容をつけ加えるのです。

 一つ一つの文について語順の工夫をします。耳で聞いて頭に入りやすい文にします。理解しやすい語順の感覚は読み方で訓練できます。毎日、短い文章を声に出して読んでください。たとえば、新聞のコラムです。一日、三分くらいですみます。読み方のポイントは、声に出すと同時に理解しながら読むことです。竹内敏晴さんは、演劇のセリフの訓練のために短歌を読み上げる方法について書いています。そのやり方が読みの訓練にもなります。(『「からだ」と「ことば」のレッスン』1990講談社現代新書)
「からだ」と「ことば」のレッスン (講談社現代新書)
「からだ」と「ことば」のレッスン (講談社現代新書)竹内 敏晴

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stars「ことば」と「からだ」について改めて考える良い機会となります。

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 演劇の訓練生に、短歌を読み上げさせます。そのとき、「先のことばを考えるな」という注意をします。短歌は短いものですから先のことばは予想はできます。しかも、よく知られる短歌ですから、下の句まで分かっています。それでも、「考えるな」と言うのです。つまり、声を出す瞬間ごとに、先が分からないつもりで読み上げて行けと言うのです。先の分かったコトバを予想どおり読んでしまうと、表現に空きができると言うのです。このように声と意識とをつなげる訓練です。

 さらに、すぐれた文学作品となると、語句や文の論理的なつながりに加えて、心理的、感情的なつながりも表現されています。太宰治「駈け込み訴え」「きりぎりす」などは、その好例です。
 ですから、添削をするために文章を読む読み方が重要なのです。さらさらと文字をよむのではなくて、頭から一語一語きちんと読んでいくのです。そのときの作業の重点は「添削のレベル」として設定できます。レジュメをご覧ください。

 大原則として、漫然と文章の全体をながめるのではなく、どのレベルの添削なのか目標を定めること、そして、大きな部分から小さい部分へと添削を進めるということです。作業ごとの重点目標を定めて、今はどのレベルの添削をしているのかを意識するのです。そうしないと、出たとこ勝負の添削になってしまうのです。

 文章の読み方では書き出しが重要です。ゆっくりとていねいに読みます。書き出しの数行についてじっくり考えるのです。書き出しにはいちばん時間がかかります。それは、みなさんが文章を書くときと同じことです。書き出しでは結びまで想像して書いているからです。文章の終わりにつながるような書き出しになるかどうかを考えているのです。

 「楽屋話」から始まる文章はよくないものです。みなさんの文章の中にもありました。「学生さんのレポート添削のお話を伺い、自分自身の文章を書く力について考えました。真っ先に思い浮かんだのは卒業論文です。」こんなふうに文章を書く動機から始めるのはよくありません。いきなり中心点を目指す文章がよいのです。そこに行き着くまでの迷いは最終的には削るべきです。

 いい書き出しというのは、こんな文です。「添削というと真っ先に思い浮かぶのは卒業論文です。」簡潔です。すぐに内容に入れます。読み始めで読み手を引きつけます。漫才でいう「つかみ」がいいのです。そんな書き出しになるように添削しましょう。
 理論文の書き出しには凝る必要はありません。レポートや論文などでは露骨にテーマを書いてしまいましょう。「私がこのレポートで……について何々を報告します。」あるいは、「私はこの論文で……が……であることについて究明したい。」という書き出しでよいのです。確かに文章としては不細工かもしれません。それでよいのです。中心テーマが伝わればよいのです。(つづく)
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