2008年09月01日

文章推敲力を育てる添削入門講座(31/35)大学編

◎ある大学で文章添削の実践者のための講義をしました。あらためて驚いたことには、文章の書き方の本は数多くあっても、添削や推敲について書かれた本がほとんどないということです。そこで、わたしはあらためて、文章力の養成を、添削と推敲の角度から考えることになりました。2日間で通算7時間の講義の記録に手を入れて少しずつ公開します。(2006.2.21、2006.3.7。第1−12回は旧サイトにあります)

【連載】第31回
●修飾語の書き加え
 次は修飾語を書き加える場合です。修飾語には修用文素と修体文素とがあります。
 修用文素とは用言(動詞、形容詞、形容動詞)を修飾するもの、修体文素とは名詞を修飾するものです。どちらも一般には文学的なレトリックだと思われていますが、論理的には「限定」です。「みかん」というよりも、「夏みかん」というほうが意味が限定されます。
 理論文であっても、アイマイなことば、たとえば「かなり、たくさん」などの修飾が必要な場合があります。ところが逆に、書かない方が良い修飾語もあります。それについては講義レジュメをご覧ください。
 「4添削の細かい技術――表記法など」の「(二)語句(漢字・かな・カタカナ)」に例を挙げています。これらは意味をアイマイにするムダな修飾語です。たとえば、「……のような」「……という」「……ている」「とても」「大変」「かなり」「非常に」「……と思う」などです。
 芥川賞を取った吉本ばななさんに『キッチン』という小説がありました。わたしは書きだしだけ読みました。こんな風に書いてありました。「わたしが一番好きなのは台所だと思う。」というのです。これでは困ってしまいます。「おいおい、「……と思う」なんてあいまいなこと言わないでくれよ」
 ちなみに、文章というものは、あえて言うなら、すべての文の文末に「と思う」がつけられます。それは文というものが、すべて書き手の判断であるということからきています。
 しかし、「と思う」という表現は責任のがれです。政治家がよくやります。「……と認識しております。」「……と記憶しております」といった具合です。こういう表現は文章に書いてはいけません。とくに、自分の考えを明確にするときにはだめです。責任を持って書くのですから、「と思う」というような表現は困ります。この部分は削ります。
 みなさんにお返しした文章でも、わたしが削った部分があるかもしれません。「……と思われる」という表現もよくありますね。うっかりすると書いてしまうものです。ほかに、「……のような」「……という」などの婉曲表現も責任の放棄につながります。
 今、若い人に流行っている表現があります。「ミルクの方、お下げいたします」とか「お水の方、お持ちいたしますか」とか言うのです。わたしは、「お水の方ではなく、お水を持ってきてください」と言いたくなります。「……の方」と婉曲に言うことで丁寧な感じがします。しかし、文章の表現では削ってよいのです。

●「遠慮コトバ」を避ける
 ほかに、わたしが名づけた「遠慮コトバ」というものがあります。――「少し」「とても」「大変」「かなり」などのことばです。書き手が遠慮しているか、厳密に表現しようとするのですが、読み手にはアイマイな感じを与えます。「ちょっと……」と書いてしまうと、そのあと何か続けて言う必要がなくなります。アイマイに納得して、それで終わってしまいます。考えが停止するのです。
 しかし、「……である」とはっきり断定するならば、「しかし」とか、「ただし」とかいう接続語をつけた文がつながります。いわば説明責任が生じて、何か付け足して言いたくなるのです。ところが、「あいつはちょっと元気がなかった」などと言ってしまうと、考えが次に進んで行きません。
 また、わたしは話をするときによく使うのですが、「自慢するようですが……」とか、「失礼ですが……」という言い回しです。これは形式的に口に出すだけで、「ごめんなさいね」と儀礼的に謝っているわけです。こんな表現は会話においては意味があります。しかし、文章においては、文学文でなければ心理的な効果はありません。論理的には自慢をしているわけですから、失礼なことになるわけです。こんな表現も、文章においては、書き手にとっても読み手にとってもエネルギーの浪費になります。
 文章では明確に言い切るべきです。自慢なら自慢で自慢してほしいのです。「簡潔明瞭」これが文章の大原則です。「自慢するようですが……」とか言わないで、「自慢します」という方が、話し手の責任が明確です。アイマイに表現することで、明確な判断を逃げているのです。以上のようなアイマイなことばは原則として削ればよいのです。(つづく)
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