2008年08月12日

文章推敲力を育てる添削入門講座(30/35)大学編

◎ある大学で文章添削の実践者のための講義をしました。あらためて驚いたことには、文章の書き方の本は数多くあっても、添削や推敲について書かれた本がほとんどないということです。そこで、わたしはあらためて、文章力の養成を、添削と推敲の角度から考えることになりました。2日間で通算7時間の講義の記録に手を入れて少しずつ公開します。(2006.2.21、2006.3.7。第1−12回は旧サイトにあります)

【連載】第30回
●「文」に何を書き加えるか?
 それでは、「運ぶ」という動詞について考えてみましょう。この動詞の要求する文素とは何でしょうか。どのような言葉が必要でしょうか。必ずあるべきものは主文素と述文素です。文の基本成分です。文で言うならば、「わたしが、運ぶ」という形になります。
 それでは、そのほかに必要な要素は何でしょうか。それは、動詞によって文法的に決まっているのです。今、日本にはすばらしい文法があります。獨協大学の下川浩さんです。日本コトバの会の運営委員長と会長代行を兼ねています。副学長を務めた人で、専門はドイツ語学ですが、日本語の文法についても造詣の深い人です。この人が日本語の動詞が要求する文素の分類をしています。
(注『日本のコトバ』14号に、動詞、形容詞、形容動詞などの補足文素の分類をしています)
 日本語のほとんどの動詞、さらに形容詞、形容動詞なども含めて、用言の要求する文素の一覧表を作成しています。これはすばらしいものです。残念ながら日本の文法学会ではその価値が十分に認められていないようです。

●「運ぶ」に必要な文素
 さて、動詞「運ぶ」には、どのような文素が要求されるでしょうか。おわかりでしょうか。まず、動詞にはそれが自動詞なのか他動詞なのかの区別があります。これは、どちらでしょうか。
――他動詞です。
 そうです。他動詞です。ならば、客文素「……を」が必要になります。英語の文法でいう目的語です。例えば、「私は自動車を運ぶ。」といった文ができます。まだ、ほかに足らないものがありますか。
 この文から何が想像できますか。この文について、何か質問したいことがありませんか。そう考えてください。この文の意味が成立するために、さらに必要な要素が二つあります。
 だれかが手元にある荷物を指さして、「おーい、これ運んでくれ!」と言ったときに、これだけではダメなのです。補うべき要素があるのです。あと二つです。おわかりでしょうか。ヒントになるのは、格助詞の「…を、…に、…と、…ヘ、…で、…より」です。このうちの二つが欠けています。いかがでしょうか。
――「……に」です。
 そうです、場所を示す「…ニ」が欠けているのです。さらに、もう一つ「……から」も欠けています。「おーい、これ運んで」という場面では出発点が分かっていますから、到着点だけ示せばいいわけです。つまり、ある場面では、「今」「ここ」という状況が設定されていますから、「……へ」ないし「……まで」が示されれば行動できます。場面での暗黙の了解です。
 しかし、文章ではそれがありません。文章と話しとのちがいです。文章では、暗黙の了解が成り立ちません。ただし、文脈において意味が成立している場合には省略できます。前の文に必要成分が書かれていれば、同じ要素が省略できるのです。ここでも、文章の流れをしっかり読んでいるかどうか試されるわけです。
 添削をする人は、それぞれの文に欠けている要素がないかどうか、欠けているときには、どの要素なのかを考えるのです。
 たとえば、「運ぶ」の場合には、「……から」と「……へ」とがあるかどうか、そして、文章の流れからみて、どちらが省略できるか考えます。もしも省略できない場合には、「この要素を入れなさい」とコメントするわけです。
 以上が、添削の「添」の第一の方法です。これが書き足しの方法です。(つづく)
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